
コラム
橋梁点検とは?点検する理由や方法まとめ

私たちの生活を支える重要なインフラ施設である橋。全国には約70万橋の橋梁があり、その約半数が建設後50年以上経過しています。凍結防止剤の散布、自然災害、大型車両の通行など、橋は常に厳しい環境にさらされています。橋の長寿命化を図り、突然の通行止めを防ぐためにも、適切な点検と維持管理が欠かせません。
本記事では、橋梁点検の目的や方法、重要性について、詳しく解説していきます。
橋梁とは

河川や渓谷、他の道路などを横断するために建設される構造物を橋梁と呼びます。
道路や鉄道の一部として建設され、市街地では土地を効率的に使うため、連続した高架橋としても活躍。構造の形式は、桁橋、トラス橋、アーチ橋、吊り橋など、架設条件や環境に応じて最適なものが選ばれています。また材料によっても、鋼橋、コンクリート橋、複合橋などに分類され、それぞれの特性を活かした設計が行われているのです。
構造
上部構造と下部構造の2つに大きく分かれるのが特徴です。
上部構造は私たちが通行する部分で、主桁や床版で構成され、通行車両や歩行者の重さを支えています。下部構造は橋台や橋脚、基礎からなり、上部構造を支える役割を担当。両者は支承によってつながれ、温度変化による伸縮や地震の揺れに対応できる仕組みになっています。さらに、高欄や排水施設、照明設備なども重要な付属物として設置されており、安全で快適な通行を支えているのです。
役割
人と物の移動を支え、地域と地域をつなぐ重要な設備です。一日に数万台の車両が往来する幹線道路の橋から、地域の生活を支える生活道路の橋まで、その規模や用途は様々。特に災害時には、避難路や緊急輸送路として機能し、地域の安全性を高める重要な役割を果たします。
また産業面では、物流を支える大動脈として経済活動に貢献し、観光面でも地域のシンボルとして価値を持つものもあります。このように多面的な役割を担う橋梁には、適切な維持管理による安全性と機能性の確保が強く求められているのです。
橋梁点検とは

全国の橋梁の約半数が建設後50年を超える中、定期的な点検の重要性が増しています。点検には法律で定められた定期点検から、日常的なパトロールまで様々な種類があります。それぞれの特徴と実施時期について見ていきましょう。
定義
橋の状態を定期的に確認し、損傷を早期発見するための調査活動です。目視による確認を基本に、必要に応じて打音検査や詳細調査を実施。健全度を判定し、その結果を記録として保存することで、補修計画の立案にも活用されています。
法定点検
5年に1回実施される法定点検は、道路法に基づく法的義務として行われます。専門技術者が橋の各部材に近接して目視点検を行い、健全度をⅠ(健全)からⅣ(緊急措置段階)の4段階で診断。損傷の進行具合を詳しく調べ、補修の必要性も判断するため、最も重要な点検といえるでしょう。
通常点検
日常点検は、道路パトロールの一環として月1回程度実施されます。パトロールカーからの目視を基本とし、路面の異常や付属物の損傷、異音や振動など、通常と異なる状態がないかの確認が目的です。気になる箇所を発見した場合は写真撮影や詳細確認を行い、早期発見・早期対策につなげます。
異常時点検
異常時点検は、地震や台風などの自然災害の後、重大な事故発生時、または通行車両などからの通報があった場合に実施します。通行の安全性を迅速に判断し、必要に応じて通行規制や応急措置を行います。被害状況を詳しく調査し、本格的な補修計画の立案にも活用されています。
橋梁点検が必要な理由

橋梁の安全性を確保し、長期にわたって機能を維持するためには、適切な点検が欠かせません。早期発見・早期対策による予防保全の実現や、効率的な維持管理を行うための重要な理由を解説していきます。
損傷個所を把握する
道路インフラの安全確保は、人々の生命と財産を守る上で最も重要な課題です。
橋梁の劣化によるコンクリートの剥落や部材の落下は、重大な事故を引き起こす可能性があります。また、損傷が進行すると橋の耐荷力が低下し、最悪の場合は落橋の危険性も。特に災害時の避難路として指定されている橋では、定期的な点検により構造の安全性を確認し、必要な対策を講じることが不可欠です。
トラブルや被害を防ぐ
損傷が深刻化してから対策を講じる「事後保全」から、早期発見・早期対策を行う「予防保全」への転換が進んでいます。小規模な段階で補修することで、大規模な工事や架け替えを防ぎ、維持管理費用を大幅に抑えることが可能です。
また、突発的な通行規制や長期の工事を避けられるため、道路利用者への影響も最小限に抑えられます。さらに、早めの対策で橋の寿命が延び、環境負荷の低減にもつながっているのです。
維持コストを最適化する
点検結果に基づく計画的な維持管理により、補修・補強工事の費用を最適化できます。
損傷の早期発見により、大規模な補修工事を回避でき、工事費用を節約可能。また、点検データを蓄積・分析することで損傷の傾向や原因を把握し、より効果的な対策工法を選定できます。同種の橋での予防保全対策にも活用でき、維持管理の質の向上とコスト縮減の両立を実現しているのです。
橋梁点検の方法

橋梁の点検は、近接目視を基本としながら、様々な方法や機材を駆使して行われます。専門技術者が着目するポイントや具体的な手順、使用する機材など、現場での実践的な点検方法について詳しく見ていきましょう。
法定点検の場合
専門技術者による近接目視を基本とし、必要に応じて打音検査も行います。点検車や高所作業車を使用して橋の各部位に近づき、鋼材の腐食、コンクリートのひび割れ、支承部の損傷など細かく確認します。損傷は写真撮影と共に記録され、健全度をⅠ〜Ⅳの4段階で評価。近年では赤外線カメラやドローンなどの新技術も補助的に活用され、より効率的な点検が可能になりました。
日常点検の場合
道路パトロールの一環として、主にパトロールカーからの目視点検を実施します。路面の異常、高欄やジョイント部の損傷、異常な振動や音など、普段と違う状態がないかを確認します。気になる箇所を発見した場合は、徒歩での詳細確認や写真撮影を行い、損傷の程度を記録。重大な異常が見つかれば、直ちに道路管理者へ報告し、安全確保のための措置を講じていきます。
異常時点検の場合
地震や台風などの災害発生後、重大事故の発生時、または通報を受けた際に緊急的に実施します。橋の全体的な変形や傾斜、構造部材の損傷、路面の段差など、通行の安全性に関わる重大な異常がないかを迅速に確認します。危険な損傷が見つかった場合は、直ちに通行規制などの応急措置を実施。状況に応じて詳細調査を行い、本格的な補修計画を立案します。
橋梁点検時に注目すべきポイントとは

橋梁の点検では、部材の種類や設置環境によって、特に注意すべき箇所が異なります。長年の経験から蓄積された損傷事例を参考に、効率的かつ確実な点検を行うため、以下の3つの観点から重点的なチェックを行っています。
部材ごとの主な損傷
主桁の腐食やき裂、床版のひび割れ、支承部の機能障害など、各部材特有の損傷に注目します。特に荷重が集中する部位や、水が溜まりやすい箇所は入念に確認。経年的な劣化や環境による影響を考慮しながら、損傷の種類や進行状況を判断可能です。
重点確認箇所
支承部周辺、排水装置付近、伸縮装置の取付部など、特に注意が必要な箇所があります。特に損傷が発生しやすく、橋の機能に大きく影響する重要な部位です。点検では、これらの箇所を重点的にチェックし、異常の早期発見に努めています。
よくある損傷事例
塩害による鋼材の腐食、凍害によるコンクリートの劣化、車両の衝突による損傷などが代表的です。これらの損傷は放置すると重大な事故につながる可能性があり、発見時には速やかに対策を講じる必要があります。過去の事例を参考に、損傷の原因や進行性を適切に評価していくのです。
橋梁点検で異常が見つかった場合

点検時に異常が発見された場合、迅速かつ適切な対応が求められます。応急措置の実施から詳細調査、補修計画の立案まで、状況に応じた対応方法とその判断基準について解説していきましょう。
応急処置を施す
異常発見時は、道路利用者の安全確保を最優先に対応します。コンクリートの剥落の危険性がある場合は立入禁止措置を実施し、損傷が深刻な場合は通行規制を行います。また、応急的な補修として、防護ネットの設置や剥離部分の撤去、仮支えの設置なども実施。道路管理者への報告と共に、二次災害の防止に向けた迅速な対応を行っているのです。
詳細を調査する
応急措置の後、損傷の原因究明と範囲特定のために詳細調査を実施します。非破壊検査による内部損傷の確認、コンクリートコアの採取による強度試験、鋼材の肉厚測定など、専門的な調査を行います。また、橋の変形や振動の計測、地盤調査なども必要に応じて実施。これらの結果を総合的に分析し、最適な補修・補強方法を検討するのです。
補修や補強計画を立てる
調査結果に基づいて、損傷の程度や原因に応じた補修・補強計画を立案します。工法の選定では、耐久性や施工性はもちろん、経済性や環境への影響も考慮。また、交通規制による社会的影響も最小限に抑えるよう工夫します。さらに、同様の損傷を防ぐための予防保全対策も計画に盛り込み、橋の長寿命化を図っているのです。
橋梁点検記録の管理方法とは

橋梁点検では、発見された損傷を正確に記録し、適切に管理することが重要です。点検データは、補修計画の立案や予算配分の判断材料となるだけでなく、劣化予測や予防保全にも活用されます。近年ではデジタル化やデータベース化が進み、より効率的な維持管理が可能になってきています。ここでは、点検記録の作成方法から活用方法まで、詳しく解説していきましょう。
点検調書の作成方法
点検で発見された損傷は、位置や程度を詳細に記録し、写真と共に点検調書としてまとめます。損傷図にはクラックスケールや定規を添えて撮影した写真を添付し、損傷の規模を正確に記録。さらに、損傷の種類や原因、進行性についても専門的な見地から評価を行い、補修の必要性や緊急性を判断する重要な資料として整理していきます。
記録の保管・管理
点検データはデジタル化して一元管理し、過去の記録と比較しながら損傷の進行状況を評価します。台帳システムを活用することで、複数の橋梁の状態を効率的に把握し、優先順位をつけた補修計画の立案が可能となります。また、災害時などの緊急時にも、過去の点検記録を即座に参照でき、迅速な対応につなげることが可能です。
データベース化の意義
蓄積された点検データを分析することで、損傷の発生傾向や劣化の特徴を把握できます。この知見は、同種の橋梁における予防保全対策の立案や、点検手法の改善にも活用されます。さらに、AI技術を活用した損傷診断や劣化予測など、新たな維持管理技術の開発にもデータが活用され、より効率的で高度な維持管理の実現につながっているのです。
まとめ
橋梁点検は、市民の安全と社会インフラの機能維持に欠かせない重要な取り組みです。技術の進歩と共により効率的で効果的な点検方法が発展する中、基本となる考え方や手法を理解することが、適切な維持管理の第一歩となります。